横浜地方裁判所 平成9年(行ウ)41号 判決 2000年9月27日
原告
坂元隼雄(X)
被告
横須賀市固定資産評価審査委員会(Y1)
右代表者委員長
島崎一也
被告
横須賀市長(Y2) 沢田秀男
右両名訴訟代理人弁護士
中山明司
主文
一 原告の被告横須賀市長に対する訴えを却下する。
二 横須賀市船越町三丁目一七番二の一部二二四・五三平方メートル及び同所一八番六の一部八一・一三平方メートルに対する平成九年度の固定資産課税台帳登録価格について、被告横須賀市固定資産評価審査委員会が平成九年七月一六日付けでした一平方メートル当たり四万三七三〇円とする審査決定のうち、一平方メートル当たり四万一〇五五円を超える部分を取り消す。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告に生じた費用の五分の三と被告横須賀市固定資産評価審査委員会に生じた費用は同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告横須賀市長に生じた費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第三 争点に対する判断(証拠を記載した事実は、主に当該証拠により認められる事実である。)
一 固定資産税の課税客体である土地の評価の方法
1 固定資産税の課税客体である土地の評価は、評価基準(法三八八条一項に基づき、自治大臣が定めて、告示したもの)により、市町村長が行うべきものとされる(法四〇三条一項)。したがって、市町村長が評価基準の定める評価方法、基準に従って当該土地の評価を適正にした場合には、評価基準の内容が著しく不当という場合でない限り、右評価額の決定は適法というべきである。
2 ところで、評価基準によれば、宅地の評価は、各種の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当たりの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求める(評価基準第一章土地、第3節宅地、一「宅地の評価」)。各筆の宅地の評点数は、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」により付設するものとされている(評価基準第3節の二。〔証拠略〕)。
3 次に、「市街地宅地評価法」の評価手順は、まず宅地の利用状況により地域を商業地区、工業地区、観光地区等の用途地区に区分し、さらにその各用途地区について、その状況が相当に相違する地域(状況類似地域)に区分し、状況類似地域の中で主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行き、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められる標準宅地を選定する。
次に、標準宅地について、売買実例価格から適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設する。
さらに、主要な街路についての路線価に比準して、その他の街路に路線価を付設する。
最後に、個々の宅地について、当該宅地が沿接する街路の路線価を基礎として、「画地計算法」を適用して、その価格を算定する(評価基準第3節二(一)1)。
4 右3の標準宅地の適正な時価については、当分の間、基準年度の前年の一月一日の地価公示価格及び不動産鑑定士による鑑定評価から求められた価格等を活用し、その七割を目途に算定するとされている(評価基準第12節の一。〔証拠略〕)。なお、平成九年度の宅地の評価において、市町村長は、平成八年一月一日から同年七月一日までの間に標準宅地等の価格が下落したと認める場合には、右評価額に修正を加えることができるものとされている(〔証拠略〕)。
そして、右の鑑定評価に当たっては、同一の用途地区内において同等の地形等、価格形成要因が類似する状況類似地域を一つ又は数個の単位で一つの集団とし、その集団の中で国土庁の地価公示価格や神奈川県の地価調査価格を示す地点がある状況類似地域を選び、その状況類似地域の標準宅地(基準となる標準宅地)を選定する。そして、その価格について、不動産鑑定士が、取引事例比較法、収益還元法、原価法を用いて算出する。次いで、右の算出された価格と地価公示価格や地価調査価格とを比較調整し、標準価格を算出する。
さらに、一つの集団の中で「基準となる標準宅地」以外の標準宅地を「その他の標準宅地」と定め、「基準となる標準宅地」と価格形成要因を比較してその価格を決定する(〔証拠略〕)。平成三年一一月二二日付市町第五〇九号神奈川県企画部市町村課長通知)。
二 本件各土地の評価の経緯
1 地域の区分及び標準地の選定等
(一) 被告市長は、本件各土地が評価基準所定の市街地に該当し、本件各土地の周辺地域は一般住宅が多い傾斜地の住宅地域であるとして、普通住宅地区に該当すると認定した。
(二) また、被告市長は、本件各土地付近の状況類似地域として、県道横須賀逗子線を挟み、右県道沿線を除く、東西にわたる傾斜地を中心とした住宅区域(別紙一(図面)赤線枠内。本件状況類似地域)を選定した。
(三) 被告市長は、本件状況類似地域の中で、奥行き、間口、形状等が当該地区において標準的なものと認められる標準宅地(その他の標準宅地)として、横須賀市船越町三丁目二七番付近の土地を選定し、類似する同一の集団内にある横須賀市船越町二丁目五〇番付近の土地(別紙一(図面)参照)を「基準となる標準宅地」に選定し、澤田鑑定士に鑑定評価を命じた。(〔証拠略〕)
2 鑑定評価
澤田鑑定士は、以上を前提として、「固定資産税評価(土地)における鑑定評価実施要項」(〔証拠略〕)に従い鑑定評価を行ったが、その具体的内容は以下のとおりである。
(一) 「本件基準となる標準宅地」の評価額
澤田鑑定士は、船越町六丁目、田浦町六丁目、田浦町一丁目の三か所の取引事例を用いて取引事例比較法により、「本件基準となる標準宅地」の比準価格を一六万一〇〇〇円と、浦郷町二丁目の収益事例から収益還元法によりその収益価格を一一万五〇〇〇円と評価したうえ、結論的には、公示価格(横須賀―六九についてのもの)を基準として、別紙三記載のような価格形成要因を分析したうえ、「本件基準となる標準宅地」の一平方メートル当たりの価格を一四万四〇〇〇円と評価した。
(二) 「本件その他の標準宅地」の評価額
次に、澤田鑑定士は、右「本件基準となる標準宅地」の評価額一四万四〇〇〇円を基にして、別紙三記載のような価格形成要因を分析したうえ、「本件その他の標準宅地」の価格を一平方メートル当たり一五万九〇〇〇円と評価した。ところが、澤田鑑定士は、右評価には、別紙三及び四記載のように、「最寄商店街への接近性」を七五〇メートルとすべきところを二〇〇メートルとする誤りがあったことを本訴係属後に気付き、改めてその点を訂正したうえで評価計算をやり直すと、別紙四記載のように、右土地の一平方メートル当たりの価格は一四万九〇〇〇円となった。(〔証拠略〕)
3 「本件その他の標準宅地」に沿接する街路の路線価の算定
被告市長は、右2の評価額一五万九〇〇〇円を前提として、その七割に相当する一一万一〇〇〇円を「本件その他の標準宅地」の適正な時価とするとともに、これをもって右土地に沿接する街路の路線価と算定した。なお、評価規準(〔証拠略〕)に基づく平成八年七月一日への時点修正の必要は認められないとされた(〔証拠略〕)。
4 本件各土地に沿接する街路の路線価の算定
(一) 被告市長は、「本件その他の標準宅地」と本件各土地とを対比し、本件各土地につき、街路条件については、接する道路の幅員が狭いことで三パーセント、未舗装であることで二パーセント、合計五パーセントを減じ、交通・接近条件については最寄駅に近いことで一パーセントの増とし、環境条件については日照・通風がやや劣ることで一パーセントの減とし、これらの増減により、「本件その他の標準宅地」に沿接する街路の路線価である一平方メートル当たり一一万一〇〇〇円に〇・九四九九を乗じて得た一〇万五四三八円(一円未満切捨て)から一〇〇〇円未満を切捨て、本件各土地に沿接する街路の平成八年一月一日現在の路線価を一平方メートル当たり一〇万五〇〇〇円と決定した(〔証拠略〕)。
(二) ところが、被告市長は、平成九年四月一六日、右評価は高いとの原告の意見に基づき本件各土地を現地において調査した結果、悪天候時の泥道状態を勘案して、系統・連続性で二パーセント減とし、右路線価を一平方メートル当たり一〇万三〇〇〇円まで引き下げ、原告に電話にて連絡したが、さらに、その後、再検討を重ね、系統・連続性で最大限の四パーセントを減ずることとし、「本件その他の標準宅地」に沿接する街路の路線価である一平方メートル当たり一一万一〇〇〇円に〇・九〇九九を乗じて得た一〇万〇九九八円につき一〇〇〇円未満を切捨て、本件各土地に沿接する街路の路線価を一平方メートル当たり一〇万円と決定した(〔証拠略〕)。
5 本件各土地の登録価格
そして、被告市長は、「固定資産評価基準の一部改正について」(平成八年九月三日付自治固第三九号及び自治評第三三号自治省税務局長通達、同日付自治評第三四号自治省税務局資産評価室長通達、〔証拠略〕)を踏まえ、本件各土地について、急傾斜地崩壊危険区域補正率(〇・八〇)、当該街路より間口狭小補正率(〇・九〇)、奥行長大補正率(〇・九〇)を適用し、その価格を一平方メートル当たり六万四八〇〇円と算定し、本件甲地については一四五四万九五〇〇円、本件乙地については五二五万七二〇〇円を平成九年度の固定資産課税台帳価格として登録した(〔証拠略〕)。
6 原告の審査申出
原告は、右登録価格を不服として、平成九年四月二八日、被告委員会に対し審査の申出をした。
7 被告委員会による審査
(一) 被告委員会は、法四三三条一項に基づき事実審理を開始し、書面審理、口頭審理、原告の立会を得たうえで行われた実地調査などの結果に基づき、本件各土地は、評価基準の市街地、普通住宅地区に該当し、本件各土地付近の状況類似地域は別紙一(図面)赤線枠のとおりであり、その中の標準宅地として横須賀市船越町三丁目二七番の土地を選定するのが相当と認めたが、被告市長が決定した本件各土地の登録価格である一平方メートル当たり六万四八〇〇円という金額では他の土地との均衡を失すると認め、六万四八〇〇円から、さらに評価要領中の「評価員が均衡を考慮して行う三割の補正減額」を行う必要があると判断し、右価額から三割減額して一平方メートル当たり四万五三六〇円の結果を得た。
他方、被告委員会は、宅地の評価において地価公示価格等が活用されていることから、実地調査の結果も踏まえ、「本件その他の標準宅地」から、別紙五記載の国土庁が作成した不動産鑑定評価に利用される土地価格比準表を使用して、本件各土地の評価額を査定し、当該価格の七割を算出すると、以下のとおり四万二一〇〇円となった。
15万9000円×0.81(地域要因格差率)×0.4672(個別要因格差率)=6万0200円(百円未満四捨五入)
6万0200円×0.7=4万2100円(百円未満四捨五入)
(二) (一)のとおり、四万五三六〇円と四万二一〇〇円という二つの価格が出されたが、被告委員会としては、本件各土地に隣接する土地の売出価格の一平方メートル当たりの価格の七割がおよそ六万五〇〇〇円であり、現在もまだ右土地は売れていないという原告の弁駁書中の申出も勘案して、右二つの価格の信頼度を同等と判断し、以下のとおり、本件各土地の一平方メートル当たりの価格を、右二つの価格の中間値である四万三七三〇円と決定し、それに地積を乗じて、本件各土地の平成九年度の固定資産課税台帳登録価格(本件甲地が九八一万八六〇〇円、本件乙地が三五四万七八〇〇円)を決定した。(〔証拠略〕)
三 本件審査決定の適否
1 本件状況類似地域の選定の適否
(一) 被告市長が、県道横須賀逗子線を挟み、右県道沿線を除く、東西にわたる傾斜地を中心とした住宅区域(別紙一(図面)赤線枠内)を一個の状況類似地域として選定し、被告委員会がこれを採用したことにつき、原告は、地域の類似性がない旨を主張する。
確かに、本件状況類似地域は、県道を基準として、その北側にある土地と、その南側にある土地とに大別することができ、北側にある土地にはほぼ南又は東向きの傾斜地がかなり含まれ、日当たりは一般に良好であり、さらに、四輪車が通行可能な幅員の道路が複数存在するのに対し、本件各土地が属する県道の南側にある土地はほぼ北又は西向きの傾斜地がかなり含まれ、日当たりは一般に良好とはいえず、右県道から相当奥まで四輪車の通行可能な道路は見当たらない(〔証拠略〕)。
(二) ところで、評価基準に規定された市街地宅地評価法においては、その状況が相当に相違する地域(状況類似地域)ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定するとされているから、状況が類似していることが要件ではあるが、同一の状況類似地域においてある程度の相違が存在することは性質上当然に許容されている。
そして、自治省資産評価室編の「固定資産評価基準解説」には、「状況類似地域を区分する基準とされるものは、街路の状況、公共施設等の接近状況、家屋の疎密度、その他の宅地の利用上の便等である。」と記載されている(〔証拠略〕)。これは、市街地としての性格を決定する基本的な事由を状況類似地域の決定における判断要素とする趣旨と解される。
さらに、〔証拠略〕によれば、被告市長において、状況類似地域の選定は原則的に三年に一度ずつ行っており、平成九年度はその見直しの時期に当たったこと、被告市長は、右見直しにおいて、それまで市全体で二三三地区であった状況類似地域を七二九地区に増やし、より現状にあった評価を目指したこと、右見直しにおいて、それまで本件状況類似地域と同じ状況類似地域であった県道横須賀逗子線を挟む沿線部分を別の状況類似地域としたことが認められる。
さらに、原告の指摘する日当たりの良否、四輪車が通行可能な幅員の道路の有無は、本件においては路線価を算定する際の加減事由として考慮されている(〔証拠略〕)。
(三) 以上を総合すると、本件状況類似地域において、右県道を基準として、その北側にある土地とその南側にある土地とでは、日当たりの良否、四輪車が通行可能な幅員の道路の有無の点において、相当相違があるものの、右のような相違は、路線価を算定する際の加減事由として適正に斟酌することが予定されているというべきであり(本件において、適正に斟酌されたかは後に検討する。)、状況類似地域の区分・選定のための要素として当然に考慮すべきであるとまではいえない。
そうすると、被告市長が、状況類似地域として、県道横須賀逗子線を挟み、右県道沿線を除く、東西にわたる傾斜地を中心とした住宅区域(別紙一(図面)の赤線枠内)を選定し、被告委員会がこれを採用したことに違法はない。
2 「本件その他の標準宅地」の選定の適否
(一) 原告は、「その他の標準宅地は本件状況類似地域の中から最も標準的な宅地を選定すべきであり、本件の場合、車両通行ができない土地を選定すべきであるのに車両通行が至便で、南向きの緩やかな傾斜地(横須賀市船越町三丁目二七番)を「本件その他の標準宅地」として選定しており、右選定は違法である。」旨を主張する。
確かに、〔証拠略〕によれば、「本件その他の標準宅地」は、幅員二・五メートルの、舗装され、小型車駐車可で、駐車場設置可能な市町村道に接し、また「本件基準となる標準地」(横須賀市船越町二丁目五〇番付近の土地)も幅員三メートルの、舗装され、小型車駐車可で、駐車場設置可能な市町村道に接し、その点で原告所有の本件各土地とは異なることが認められる。
(二) しかし、同一の状況類似地域の中においてもある程度の条件の相違が存在すること自体許容されており、右の標準宅地と本件各土地の条件が相異しても、両地に沿接する街路の路線価を算定する際の加減事由として相違点を適正に斟酌することによって、本件各土地の合理的な価格を算出することは十分可能である。
さらに、本件状況類似地域の中において、四輪車などの車両の通行ができない土地は数的には少数であり、また、県道の南側は北側と比べて人家の数がやや少ない(〔証拠略〕)。したがって、そもそも本件各土地と条件において同一の土地を「その他の標準宅地」として選定すること自体が容易ではない。
以上によれば、被告市長がし、被告委員会が是認した「本件その他の標準宅地」の選定に、原告主張の違法はない。
3 基準となる標準宅地の評価の適否
(一) 原告は、まず、「本件基準となる標準宅地の価格を算出する過程で、時点修正として地域要因マイナス二・八パーセント、地域格差として街路条件四・〇パーセント、交通接近条件一〇パーセント、環境条件二六パーセントとしているが、これらはいずれも根拠が不明である。」旨を主張する。
原告の右主張は、地価公示価格(横須賀一六九についてのもの)から、「本件基準となる標準宅地」の価格を比準する際の補正の仕方を問題とするものである。
(二) この点につき、澤田鑑定士は、右の両地を対比し、地価公示地につき、国土庁発表の地価変動率及び当該地域の特性・不動産取引の動向等を参酌して、平成七年一月一日からの価格変更をマイナス二・八パーセントとし、街路条件につき、幅員が四メートル(本件基準となる標準宅地のそれは三・五メートル)、街路の配置が均衡がとれていること(同普通)、道路の系統連続性が優ること(同普通)から四パーセントとし、交通接近条件につき、京急田浦駅、最寄りの商店街、小学校・公園等及び病院・官公署に近いことから一〇パーセントとし、環境条件につき、土地の利用度が高いこと、社会的環境が良好(日照通風、各地の配置、利用状況、社会環境)なことから二六パーセントとした(〔証拠略〕)。以上のとおり、補正の根拠は相当程度明確であり、原告の右主張は採用することはできない。
4 「本件その他の標準宅地」の評価の適否
(一) 原告の主張
澤田鑑定士は、「本件基準となる標準宅地」の価格を基に「本件その他の標準宅地」の価格を算出する過程で、街路条件(道路幅員)をマイナス三パーセントとすべきところをマイナス〇・三パーセントと、交通接近条件(最寄駅への接近性)をマイナス二パーセントとすべきところをマイナス一・九パーセントと、同条件(最寄商店街への接近性)を七五〇メートルとすべきところを二〇〇メートル(プラス五・五パーセント)とそれぞれ誤った評価をしている。以上が標記に関する原告の指摘である。
(二) しかし、右の両標準地それ自体を個別に比較するのではなく、「本件その他の標準宅地」のある地域と「本件基準となる標準宅地」のある地域との地域要因を比較する際には、当該地域内の代表的な土地の接する道路の幅員に〇・五メートルの違いがあることが補正率〇・三パーセント程度にしかならないと評価される(〔証拠略〕)ことにもそれなりの合理性があると思われる。また、京急田浦駅への距離が一五〇メートル遠いことから補正率がマイナス一・九パーセントとされている(〔証拠略〕)が、原告主張の数値はマイナス二パーセントであるからそれほどの違いではない上、左記のとおり地域要因の問題であることも踏まえると、この点に原告主張の違法はない。
ただし、最寄商店街への接近性については、後記で検討する。
5 最寄りの地価公示地点(船越町二―一五―六)との対比の欠如の適否
(一) 原告は、「本件その他の標準宅地」につき、最寄りの地価公示地点(船越町二―一五―六)からの土地価格比準表上の格差率内訳の明示がないので、適正な補正が不可能である旨を主張する。
(二) しかし、「本件その他の標準宅地」は「本件基準となる標準宅地」を解して地価公示地点(横須賀―六九)との関係を間接的ながら対比的に考慮しているのであり、また、必要以上に多数の地価公示地点との関係を考慮すること自体、できるだけ効率的に各土地を評価しようとする制度の趣旨に馴染まない面がある。
いずれにしろ、原告の(一)の主張は採用することはできない。
6 最寄商店街への距離を誤ったことと本件審査決定の適否
(一) 澤田鑑定士は、「本件その他の標準宅地」の一平方メートル当たりの価格を一五万九〇〇〇円と評価したが、右評価には、「最寄商店街への接近性」を七五〇メートルとすべきところを二〇〇メートルとする誤りがあった(前記のとおり)。その点を訂正したうえで評価計算をやり直すと、右土地の一平方メートル当たりの価格は一四万九〇〇〇円になる。
(二) そこで、「本件その他の標準宅地」の価格が一五万九〇〇〇円ではなく、一四万九〇〇〇円として、本件各土地の価格を検討する。
まず前記二7の二つの方法により、本件各土地の価額を算出すると、前者の方法によれば四万二六三〇円(一四万九〇〇〇円の七割一〇万四三〇〇円が「その他の標準宅地」の適正時価及び右土地に沿接する街路の路線価となり、これについて一〇〇〇円未満を切捨て後の一〇万四〇〇〇円に〇・九〇九九の補正率を乗じて本件各土地に沿接する街路の路線価を求めると、九万四〇〇〇円となる(一〇〇〇円未満を切捨て)。これに急傾斜地補正率他の補正率(〇・九、〇・九、〇・八)を乗じて本件各土地の価格を求めると六万〇九〇〇円(一〇〇円未満切捨て)となる。これに評価要領に基づく補正率の七割を乗じると、本件各土地の固定資産評価額四万二六三〇円が求められる。)、後者の方法によれば三万九四八〇円(一四万九〇〇〇円×〇・八一×〇・四六七二で得た五万六四〇〇円(一〇〇円未満四捨五入)の七割を求めると、三万九四八〇円となる。)となる。
(三)(1) ところで、被告委員会は、右距離に関する誤認の事実判明後も、本件価格の見直しは行っていない(〔証拠略〕)。その理由について、右〔証拠略〕において、固定資産評価額は地価公示水準の七割を目安に決定するとされており、固定資産税の評価は三割の許容範囲が設定されているから、客観的な交換価値を超えない限り、違法ではなく、変更の必要はないと記載されている。
しかし、前記のとおり、評価基準によれば、宅地の評価において、標準宅地の適正な時価を求める場合には、当分の間、基準年度の初日の属する年の前年の一月一日の地価公示価格及び不動産鑑定士等による鑑定評価から求められた価格等を活用することとし、これらの価格の七割を目途として評定するものとするとされており、評価基準はすべての宅地の所有者との間において普遍的に適用されるのであるから、前記〔証拠略〕に記載された見解は採用することができない。
(2) また、前記のように、被告委員会は、本件価格の決定に当たり、四万五三六〇円と四万二一〇〇円という二つの価格の信頼度を同等と判断しているところ、前者の四万五三六〇円は、被告市長による登録価格六万四八〇〇円という金額では他の土地との均衡を失すると認め、評価要領中の「評価員が均衡を考慮して行う三割の補正減額」を行う必要があると判断し、その上限である三割の減額をしたものであり、これによりかなりの減額になっているものと推測できる。しかし、三割減額の具体的な理由が本件証拠上必ずしも明確でないから、右減額によりすでに前記誤認も結果的に評価済みといえるか否か(第六回口頭弁論調書参照)は本件証拠上不明であり、前記誤認の存在が明らかにあった現在、四万五三六〇円という評価を維持することはできない。
(3) 他方、前記誤認の存在が明らかになる前に算出された四万二一〇〇円という価額は、宅地の評価において地価公示価格等が活用されていることから、実地調査の結果も踏まえ、「本件その他の標準宅地」から、別紙五記載の国土庁が作成した不動産鑑定評価に利用される土地価格比準表を使用して査定し、当該価格の七割を算出したもので、個別要因の比較検討を細かく行ったうえ算定されたものである。そうすると、「本件その他の標準宅地」という基準地の価格が変動すれば、基本的にそれに対応して本件各土地の評価も変動すると解するのが自然である。ただ、右三万九四八〇円という評価額は、以上の全検討結果に照らすと、本件各土地の固定資産課税台帳登録価格としては、若干低額であると認める。
(4) 以上を総合すると、前記誤認判明後に計算した価格である四万二六三〇円、三万九四八〇円のいずれか一つによって本件価格を決定するのが相当であるとは断定できず、前記二つの方法により算出された価額の信頼度は同等との被告委員会の前記判断を誤認判明後も同様にあてはめて、本件価格はその中間値である四万一〇五五円と決定するのが相当であると認める。
7 まとめ
右のとおりであり、6(二)は考慮する必要があるが、この点を除くと、前記の経緯のとおりであるから、本件審査決定に原告の指摘の違法はない。よって、原告の請求一は、被告委員会が平成九年七月一六日付でした本件審査決定のうち一平方メートル当たり四万一〇五五円を超える部分について取り消すこととする。
四 本件請求二の適否(争点二)
原告は、本件請求一において、被告委員会に対し、行政処分の取消しを求めているところ、行政事件訴訟法三二条は「処分又は裁決を取り消す判決は、第三者に対しても効力を有する。」と規定しているから、原告が本件請求一において勝訴すれば、本件請求二の内容が実現されることとなる。したがって、原告の求める本件請求二は不適法である。
第四 結論
以上のとおりであり、被告市長に対する訴えは不適法であるから却下し、本件審査決定のうち一平方メートル当たり四万一〇五五円を超える部分を取り消すこととし、その余の請求部分は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡光民雄 裁判官 窪木稔 家原尚秀)